学校に寄せられるさまざまなクレーム。保護者や地域からの相談に先生はどのように対応するのが良いだろうか?クラス担任として豊富な経験がある鈴木邦明氏に、学校へ寄せられるさまざまな相談に対応する際のポイントを聞いた。第98回のテーマは「送迎バスの運用に不安がある」。
重大な事故が発生する原因は…
2022年9月5日に静岡県牧之原市で幼児が送迎バスに取り残され、結果的に亡くなってしまうという痛ましい事故が起こりました。園のスタッフの複数のミスが重なり、重大な事故につながったと思われます。
残念ながら今回のような事故は繰り返し起こっています。2021年夏、福岡市の保育園においても同様の事故が発生し、5歳児が亡くなっています。こういった事故が起きると、その園や学校の特異性が指摘されます。今回のケースですと「その日は運転手が代理だった」「運転を担当した園長は70歳だった」等のものです。そういった特異性を指摘し、その部分の変えていくことでトラブルが減る(防げる)のではという考え方があります。
ただこの考え方には私は少し違和感を抱きます。こういった重大な事故が発生するには、特異的な問題点が影響を与えていることはもちろんです。しかし、子供が育つ環境をより良いものにしていくには、それ以外の面も多面的に見ていくことが必要なのではと思います。今回の事故では、いくつもの要素が絡んでいます。そういったものは、事故が起こった園や学校だけの問題ではないのではと思います。
その1つが「日本は子育て(保育・教育)に税金を使わない」ということです。しっかりと予算を掛け、人員に余裕があれば、高齢の園長が送迎バスの運転をすることにはなっていなかったと思われます。日本はOECDの国々と比較して、子育て(保育・教育)に税金を使わない国です。公立の小中学校においては、再任用や講師の立場の雇用の人が増えています。他の研究でも、日本の教育に関して「少ない予算の中でそれなりによくやっている」と指摘しています。今の子供は未来の社会の中心となる人たちです。中長期的視点で税金の使い方について考えていくことが必要でしょう。
また、もう1つの視点が「ヒト」の大切さです。今回の園では登園管理等に専用のアプリが用いられていたとのことです。家庭で保護者がスマホ等を用い、出欠席の入力が行えます。また、園バスの現在位置情報等がリアルタイムでわかる等の機能もあります。小学校等と比べ、幼保のほうがこういったアプリを活用している園が多いように感じます。
ただいくら便利なアプリを導入していたとしても結局、大事になるのは「ヒト」です。今回は便利なアプリが導入されていたのですが、その扱い方に問題がありました。登園の際にバスにいた全員を登園したこととして一括で入力していたそうです。そういったことが事故につながっています。技術の進歩により便利になったことで防げるトラブル(事故)もあります。逆に便利になったからこそ見落としてしまうようなこともあります。今回の事故は「ヒト」の重要性を改めて感じさせることとなりました。
自己点検について公表していくことが保護者の安心につながる
今回のような事故が起こると、通園・通学に園・スクールバスを使っている保護者は不安になります。多面的に自己点検をし、それらをしっかりと公表していくことが保護者の安心につながっていくのでしょう。悲しい、痛ましい事故が今後起こらないことを心から願います。
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